長年、調査現場に身を置いてきましたが──
どれほどキャリアを積もうと、困難との闘いが終わることはありません。
現場に入る前、私たちは必ず入念な下調べを行います。
マップアプリの精度が格段に上がった今では、衛星画像から張り込みポイントを確認し、
逃げ道・死角・通報リスクの高いエリアなどをシミュレーションすることも可能になりました。
しかし、どれだけ事前準備を重ねても、「現場は生き物」です。
住宅密集地での長時間張り込みが難しい場所、対象者が電動自転車・バイク・車を使うケース――
どれも一筋縄ではいきません。
調査員として長年培ってきた経験から、こうしたリスクや課題を予見し、
事前に担当者へ報告・提案を行います。
「この現場は人員を増やした方が安全に遂行できる」
「この角度からの張り込みは通報リスクが高い」
「対象者が高速移動の可能性あり」
そんな一つひとつの現場判断を、担当者を通じて依頼者様へ共有し、戦略をすり合わせるのです。
もちろん、私たちの提案を受け入れていただける場合は、
現場対応もスムーズに進みます。
しかし時には、
「提案はしたけど、承認が得られなかった」
「理解はしているが、現状で進めてください」
「依頼者様から“何やってるんですか”と言われました」
といった厳しい現実に直面することもあります。
その瞬間、私たちは板挟みになります。
依頼者様の期待、担当者の判断、現場の危険。
それぞれの立場に正義があり、どれも間違ってはいない。
だからこそ、覚悟を持って現場に立つしかないのです。
現場の真実 ― 張り込みは「静かな闘い」
調査員の仕事を「地味」と思われる方もいるでしょう。
けれど、その地味な時間こそが一番過酷です。
ツーマンセル(2名体制)で張り込みを行う場合、
交代しながらも失尾(対象を見失うこと)しない緊張を保たなければなりません。
長時間その場に留まれば、不審者として通報されるリスクが高まります。
私たちは、一般人の中に溶け込む演技力を求められます。
カップルに見せかけて公園のベンチで会話を装う。
友人同士のようにスマホを見ながら待ち合わせ風を演じる。
それでも何時間も動かず同じ場所にいると、
地域住民や警察から職務質問を受けることもあるのです。
それでも私たちは動かない。
なぜなら、依頼者様が信じて待っているからです。
尾行の現場 ― 命を預ける判断
対象者が車やバイク、電動自転車を使用している場合、
尾行の難易度は一気に跳ね上がります。
速度変化、信号、交通量。
一瞬の判断が遅れれば、すぐに見失う。
その中で、交通ルールを無視する対象者も少なくありません。
私たちは依頼者様の想いを背負いながらも、
命を懸けてその背中を追いかけています。
しかし、かつて行き過ぎた対応が大事故に繋がったこともありました。
それ以来、私たちは追う勇気と同時に引く勇気を持つようになりました。
どんなに難しい案件でも、命を賭ける仕事ではない。けれど、心を賭ける仕事ではある。
調査員もまた、人間である
時折、「調査員はただの駒だ」と言われることがあります。
確かに、現場を支えるのは調査員の行動力であり、組織の戦略です。
しかし、私たちも血の通った人間です。
寒空の下で息を潜める時、
依頼者様の気持ちを思い出しながら、「絶対に成功させたい」と拳を握ります。
現場で判断を誤れば誰かが傷つく。
その責任を背負う覚悟を、私たちはいつも胸に刻んでいます。
人間だからこそ、感じ、考え、提案することができる。
AIや機械にはできない現場の肌感覚が、
私たちの最大の武器なのです。
困難を越えて ― 経験が生む“現場力”
どんな現場にも、必ず困難は存在します。
通報リスク、失尾、天候、対象者の予測不能な動き。
それでも私たちは一つひとつの現場を積み重ね、経験値として糧にしてきました。
だからこそ言えるのです。
「困難から逃げなかった者だけが、本当の現場力を手にする」と。
担当者や依頼者様の厳しい声に向き合い、
時には無理難題に挑み、
その中でしか得られないスキルと判断力が育っていく。
それは、どんなマニュアルにも書かれていない調査員としての魂です。
まとめ ― 「この仕事ができますか?」
無料相談で話をしているとき、私はよくこう尋ねます。

「〇〇様は、この地味で、過酷で、孤独な仕事ができますか?」
多くの方は笑って答えます。
「無理です」「自分には向いていない」と。
けれど、その言葉の奥に、私たちの仕事への理解と敬意が滲んでいる気がします。
私たちは特別なヒーローではありません。
ただ、依頼者様の想いを叶えるために、
誰にも知られず戦う無名の職人です。
地味であっても、キツくても、
この仕事が誰かの人生を変えることを知っているからこそ
今日も私は、調査車両のハンドルを握り、
次の現場へと向かいます。


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